サン=テグジュペリはこんなセリフを吐く、「愛するということは、おたがいに顔を見あうことではなくて、いっしょに同じ方向を見ることだ」。名言として知ってはいたが、まさかサン=テグジュペリが、しかも「人間の土地」で述べていたとは。しかもこれ、両想いの男女のことではないのだ。

 このセリフは、路を失い、砂漠に墜落して、それでも奇跡的に助かった彼と僚友のエピソードから酌みだされる。航路から外れており救出隊は絶望的だ、食糧は燃え尽き、水は砂漠が吸ってしまった。2人は生きるためにあらゆる手立てを尽くそうとするが、ことごとく失敗する。渇きに声を失い、幻覚が見はじめ、死まであとわずか。2人のあいだに、一種の”希望”のように横たわるピストルが不気味だ。

 そこで、残骸の中から一果のオレンジを見つけるのだ。すぐさま2人で分かちあう。そして、死刑囚の最期のタバコのように味わう。そして、進むために、もう一度立ち上がる。同じ運命に投げ込まれ、ピストルやオレンジを前に顔を見合わせることも可能だ。だが、彼らはそうしなかった。東北東に進路をとって、歩き続ける。この名言は、生死ギリギリのところから酌みだされた美酒なのだ。

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